BETABOME(ベタ褒め)FACTORY

自分を褒めて。同時に他人も褒めて。色々感じたことや考えたことを書きます。

DIR EN GREYの「DUM SPIRO SPERO」をベタ褒めする

DUM SPIRO SPERO」は2011年に日本のロックバンド「DIR EN GREY」によってリリースされた8作目のアルバムである。
DIR EN GREY」のつくるアルバムはどれもアルバムとして非常に完成度が高いので、甲乙つけがたいが
俺が1番好きなアルバムは「ARCHE」(2014年)かこの「DUM SPIRO SPERO」だ。
夏のじめっとした日は「DUM SPIRO SPERO」。冬の雨の日は「ARCH」が合いますな!
今回はこの「DUM SPIRO SPERO」をベタ褒めしたい。
先ず前提として
DUM SPIRO SPERO」こいつは最高のアルバムだ!
彼らがつくる曲は決して「わかりやすい」とは言えない。
しかも、彼らの表現は「殺害」「性行為」「死」「血」など禁忌(タブー)にガンガン踏み込んでおり、ホラー映画のような表現やゴア表現(流血)スプラッター(血しぶき)などの生々しい表現もする。
ようは「閲覧注意」ってやつである。
曲が「わかりやすくない」にも関わらず、「閲覧注意」
どんだけ入り口狭いんだよ!
って思う。
しかし俺はその狭い入り口に入ってみる価値があると思う。
狭い入り口に入って彼らのつくるアルバムを聞き続けると
見えてくる
彼らの「表現」の凄さ、このアルバムの凄みが。
もちろん、禁忌やホラー表現があるので簡単にこのアルバムを人に勧めることはできない。
気分が落ち込んでいる時や、ヒーリング音楽を聴いて心を癒したい時などはオススメできないかも知れない。
(聞き慣れると彼らの音楽こそ癒しだ!っということもできますね)

しかしこのアルバムは俺にとっては
とっておきの宝物!
音楽が好きな人。明るい音楽に疲れてしまった人には是非オススメだ。
ではDIR EN GREYの「DUM SPIRO SPERO」をベタ褒めしていく。
途中「アート」についても触れます。今回も長いですがお付き合いいただければ幸いです!
(敬称は省略させていただきます)
アイキャッチ画像は俺たちアリスと月と屁こきウサギ)

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 DIR EN GREY(以下ディル)の「DUM SPIRO SPERO」(以下DUM)
最高のアルバムだ!!(2回目)
このアルバムに限ったことではないが、ディルはシングルではなくアルバムで勝負してくる。
アルバムとしての完成度が高いので1つ1つのアルバムは「コンセプトアルバム」と言ってしまっても良い。
そして単曲として聞くよりも、1つのアルバムをぶっ通しで聞く方がディルの味(良さ)を感じることができる。
とは言え、このアルバム
「一見さんお断り」
的でもあって、はじめてディルを聞く人からすると面食らってしまう可能性が十分ある。
そこでオススメなのはまずこのアルバムに収録されているシングル曲3つを試しに聞いて、聞き慣れたところで、アルバムに入っていくやり方。
つまり
「DIFFERENT SENSE」
「LOTUS」
「激しさと、この胸の中で絡みついた灼熱の闇」
を試しに聞いてみるといいです。
(ショッキングな映像が苦手な方はPVは避けてね)
シングル曲も最高にいいです。
で、3つのシングル曲を聞きまくって曲が体に馴染んできたら、アルバムを貪るように聞いてほしい。しゃぶり尽くすように聞いてほしい。
ハマルヨ!
では、ここからはいよいよDUMの内容に触れていく。
話は
1「なんだかよく分からないモノ」に触れるということ
2アリスはウサギを追ってどこまでも落ちていく
3絶望を語ることで見えてくる一筋の光
4終わりに。「アート」は簡単に「答え」をくれない
の4本です。

「なんだかよく分からないモノ」に触れるということ

「DUM SPIRO SUPERO」というアルバムは50回100回200回と聞き続けることのできる魅力的なアルバムだ。
しかし逆に言うと1回通して聞いただけでは、DUMの世界は見えてこない。
そもそも京の発声にシャウトやデスボイスが多用されているので、1回聞くだけでは歌詞が聞き取れない。
なので京の書く歌詞の意味、意図ももちろん感じることができない。
また曲の構成も、変則的で、突然シャウトやグロウルやガテラルのパートに変わったと思ったら、1曲綺麗に歌い上げる曲もある。
つまり1回聞いただけでは
「なんだこれは???」
ってなる可能性が高い
でだ。
そこで興味を失ってこのアルバムを聞き続けないのは勿体無い!
って言いたい
なんだこれは???
ここがスタート地点だからだ。
この「なんだこれは???」という感覚の大切さを語る上で少しアートの話をしよう。
(しばらくアートの話にお付き合い下さい)
みんなはアート(絵画や彫刻、映像やインスタレーションなど)に対してどんな印象をもっているだろうか?
「なんだかよく分からない」
「私は絵心が無いし、センスも才能も無いから見ても分からない」
と否定的な発言をされることがある。
しかしこの「なんだかよく分からない」という感覚。
実はアートではこの感覚が非常に大切なのだ。

人間は「よく分からないモノ」に対して
好奇心を持つか恐怖するか
俺はこの2択だと思っている。
で、とかく、頑固な人やアートに不慣れな者は
「よく分からないモノ」に対して否定的だ。
彼らは「よく分からないモノ」に対して否定的に捉える。
その根底にある感情は「恐怖」である。
考えてみれば当たり前のことなのかもしれない。
エイリアンの様な異形の生き物をはじめて見た時、
「毒を持っているんじゃないか?」
と警戒するのは当たり前のことだ。エイリアンに対して警戒するってのは分かり易い。
しかし人の心(精神)や人の価値観にうったえるアートでもこれと同じことが言える。
「なんだかよく分からないモノ」つまりアートは
見る人のそれまで生きてきた過程で構築した価値観を否定、
もっと言えばぶっ壊してしまう可能性があるからだ。

過激なアートの例を挙げるならば
マルセル・デュシャンは美術館に「泉」と称して便器を置いた。綺麗で清潔、もっといえば神聖な空間に人間が排泄する便器をおく。
トレーシー・エミンは「わたしが今まで一緒に寝たすべての人1963~1995年」というタイトルの下、今まで性関係に至った男性の名前をテントに貼りまくったものを作品として世の中に出した。
ディルの「OBSCURE」だって同じだ。
純粋に子どもが好きで小学校の教員になった女性教諭に、娼婦が子どもを食べる「OBSCURE」のPVを見せたら、きっと彼女は否定的な見方をするだろう。

もちろん全てのアートが例に挙げたように禁忌(タブー)を表現しているわけではない。
アートは本当に多種多様なのだ。
それらアートに対して
分からない。
くだらない。
必要ない。
で片付けることは容易い。
そして自分の価値観や生き方を懐疑的に見る必要もないから安心だ。
しかし、「よく分らないモノ」に対して恐怖ではなく、「好奇心」を持った時、変わる。
何が?
自分の世界。
自分が持っていなかった「新しい価値観」に触れて、それを自分に落とし込んだ時、新たな感動を獲得し、新たな感覚を味わうことができる。
アートは(意識的であれ無意識的であれ)俺たちが今まで持っていたステレオタイプをぶっ壊してくれる。
「こうあるべきだ」
「こうしなくてはいけない」
「それは非常識だ。これが常識だ」
このステレオタイプからの脱却。
それを可能にするのがアートだと思う。
自由なんだよ!価値観も考え方もそれぞれ違って良いんだ!
アートはそう言う。
DUM SPIRO SPERO
このアルバムはもう、アートの領域だ。
このアルバムを聞き続けることによって、はじめは自分にとって「よく分らなかったモノ」が「新感覚」となって自分の中に入ってくる。
その感覚がたまらなく心地よい。
その感覚がたまらなく愛おしい。

アリスはウサギを追ってどこまでも落ちていく

さて、
このアルバムがアートであるという前提と、ちゃっかりアートの良さについて語った上で、このアルバムの内容に迫っていく。
(展開が遅くてすまん。あとこっからより個人的な意見炸裂になります)

収録曲

1. 狂骨の鳴り
2. THE BLOSSOMING BEELZEBUB
3. DIFFERENT SENSE (シングル)
4. AMON
5 .「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と冷たい雨
6. 獣慾
7. 滴る朦朧
8. LOTUS (シングル)
9. DIABOLOS
10. 暁
11. DECAYED CROW
12. 激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇 (シングル)
13. VANITAS
14. 流転の塔

このアルバムを全体を通して何度も聞いた時、見えてきたのは、
ルイス・キャロルの書いた小説「不思議の国のアリス」だ。
13曲目、「VANITAS」で歌詞に「アリス」という言葉が出てくるが、このアルバム全体の印象がまさにウサギを追いかけて、穴に落ちてしまう少女アリス。
落ちた穴の中でアリスはふわりふわりと「底へ」と落下していきながら、様々な景色を見せられる。このアルバムはそんなアリス体験ができる。
(なんだそれ)
1曲目「狂骨の鳴り」で、すっと穴に落ちる。
そこから2曲目「 THE BLOSSOMING BEELZEBUB」でゆっくりと落ちていき、
3.曲目の「 DIFFERENT SENSE」 で更に底へと落ちていく。
そこからとりあえず、ずっと落ちていく(笑)

この
どこまでも落ちていく、どこまでも落下していく感覚がこのアルバムの最高に楽しいところだと思う!
そう思わない?
特に1曲目2曲目3曲目の流れは本当に凄い。
このアルバムの世界観が一気に襲いかかってくる。
シングル曲の「DIFFERENT SENSE」がこう生きるのかよ!
って思う。

落下していく過程で俺たちは様々な景色を見せられる。
ハエの群れ
ぱっとしない青空

喘ぎ声
朦朧

彼岸花

うーん
実際、字面で書くとあんまり見たくないものばかりだ。
だけどね。
アルバムを通して何回も聞いていると、不思議なことに、この景色がとても綺麗に思えてくるんだよ!
遠くで聞こえる喘ぎ声の茶色が混ざったようなピンク
彩度の低い青空の青
虚ろな瞳が写す曇り色
俺たちはまるで落下するアリスのように、なすすべなく、それらの景色を見せられる。
もちろん、目を瞑ることはできる。
けれど、俺たちは目を瞑らない。
なぜか?
俺たちはディルがつくるその景色に魅せられてしまっているからだ。気付いた時には聞き惚れてしまっている。

落下しながら、魅せられる様々な景色、
そのどれも彩度は低く鮮やかさを失っている。
けれど魅せられる。
DUM SPIRO SPERO
このアルバムは力作であり怪作であり傑作だ。

ウサギを追って穴に落ちたのは俺たちだ。
だから否応なく、ふわりふわりと、穴の底までどこまでも落下していき、それに抗うすべはない。
目を瞑ることは可能だ。
だけど、瞑らない。
貪るように聞き続ける。そして気がついたら魅入っている。
このアルバムはそんなアルバムだ。

絶望を描くことで見えてくる一筋の光

このアルバムの盛り上がりポイントを個人的に言うならば、3つある。
盛り上がりポイント1つ目
1曲目「狂骨の鳴り」と2曲目「THE BLOSSOMING BEELZEBUB」と3曲目「DIFFERENT SENSE」の怒涛の流れと圧倒感。
初っ端から全力で襲いかかってくるDUMが醸す世界の迫力。
ちなみ「THE BLOSSOMING BEELZEBUB」の歌詞一部
「ソファーの下 探してた 銀のナイフ 見つけ」
の部分。
最高か!
このねちゃねちゃ感がたまらない!

盛り上がりポイント2つ目
8曲目「LOTUS」からの9曲目「DIABOLOS」への展開。
ここで世界観はさらなる広がりを見せる。
ただただ落下を余儀なくされた俺たちはとんでもない景色を見せられる
って印象だ
「LOTUS」の歌詞
「お前は月 泣いて眠ればいい」
この言葉は京にしか描けないだろう。
マジで格好良すぎる!!

もともと「LOTUS」はシングルとしても非常に完成度が高かった。
それが「DIABOROS」で更なる広がりを見せた。
この「LOTUS」や「DIABOLOS」あたりで俺たちは、暗い景色の間に、ほんの少しずつ光を見出していく感覚を覚える。
それは暗い夜道に目が慣れてくるように
まるで今まで見逃していた小さな光を見つけるようにして
希望みたいなものを曲から見出す。
「DIABOLOS」の最後の歌詞の部分「虚ろな眼を空に向けて」で一瞬、
ほんの一瞬
煌めきすぐに消える光。
最高である!

盛り上がりポイント3つ目
13曲目「VANITAS」からラスト14曲目「流転の塔」
クライマックスだ。
「VANITAS」
この曲はずるい!
最後にこんな最高のバラードを京がクリーンボイスで歌い上げるのだ。
ここまできて俺たちアリスは
「ここまで落下してきて本当に良かった」
と恍惚状態に陥る。
ディルはそもそもこういう純粋なバラードをつくるのが上手い。
だってデビューの曲が「アクロの丘」なのだから。
だから「VANITAS」は最高に決まっている。
でさ。
歌詞の一部
彼岸花揺れる」
ここが本当にニクイ!!
アルバム全体のイメージの中でメタルっぽい音、洋楽っぽいサウンドを意識しながら「彼岸花」という日本の情景を思わせる歌詞。
この曲の他でも彼らがつくる曲には至る所に「日本の匂い」がある。
まさに唯一無二。
洋楽かぶれにならない。
日本という国がもっている景色や空気感が描かれる。
私たち日本人の中にある情感、情緒がこみ上げてくる。
そして最後に貫禄を見せる「流転の塔」。
まさにこのアルバムに相応しい締めくくり。
「流転の塔」の終わった後、まるで夢見心地のような感覚。
しばらくして、またもう一度、あの世界観に触れたいという欲求。
そしてまた俺たちは貪るようにしてDUMを聞いてしまうのだ。

DUM SPIRO SPERO」とは「息の続く限り、わたしは希望をもつ」という意味らしい。
このアルバムを通して、俺は穴の底へとゆっくり落下しながら、色々な景色を否応なく見せられ、徐々にその景色に魅せられた。
はじめは暗くてジメジメしていてドロドロしていた世界観。
しかし、聞き続けていると、ほんの一瞬、わずかに光り消える「希望」が見え隠れする。
聞いていてその感覚が堪らない。
そしてさらに聞き続けると暗くてジメジメしていてドロドロしていた世界も、なんとなく楽しくなってくる不思議さよ。
DUM SPIRO SPERO」このアルバムは本当に傑作だ。何回聞いても、味わい深い。

終わりに。「アート」は簡単に「答え」をくれない

今回「DIR EN GREY」 の「DUM SPIRO SPERO」をベタ褒めした。
これだけの傑作をつくりだした「DIR EN GREY」というバンドは本当に凄い。
まさに表現の鬼だ!
彼らの「表現」に対する貪欲さ、誠実さには頭が上がらない。
確かに1回聞いただけでは「なんだかよく分らないモノ」かもしれない。
しかし、聞き続ければ勝手に分かってくる。
「なんだかよく分らないけど分かってくる」
のだ。
それはまるでアニメ「キルラキル」の「満艦飾」家のコロッケのようである!
あれだ!
「自分が理解、納得できる範囲だけの世界」を見るのはもうやめようぜ!
ちょっと、勇気はいるが
「なんだかよく分らないモノ」にガンガン向き合ってみよう。
DIR EN GREY」のつくる音楽もそうだが、アートってのは、なかなか「答え」をくれない。
このアルバムに限らず京の書く歌詞は最後疑問文で終わる曲が多い。
「DIFFERENT SENSE」の
「何を意味する「青空」」
「 LOTUS」の
「What is bleaving?」
「VANITAS」の
「ここは?」
この相手に疑問文を投げかけるってやり口は、アートのそれと一緒だ。
要するにそれを見る者、聞く者に考えさせてくる。
そこで、私たちは安直に「答え」を求めがちだ。
そして簡単に理解できなかったり、自分の価値観の外のモノだった場合、一蹴してしまいがちだ。
けれど、安直に答えを求めるのはもうやめよう
分らないこと、を楽しもう
「なんだかよく分らないモノ」に対して考えをめぐらしてみよう
「なんだかよく分らないモノ」を人とシェアしよう

すると「なんだかよく分らないモノ」が「新感覚」に変わって自分の中に入ってくる。
その感覚は最高だ。
それがアートの楽しみ方なのです!
俺の中ではじめ「なんだかよく分らないモノ」だった「DUM SPIRO SPERO」というアルバムは今では俺の
とっておきの宝物
に変わって俺の中に居座っている。

ありがとうございました。

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